『春の小川』 No.3645

わたしはもういつ死んでもいい
とよく言っていた
死んだらこの四国八十八箇所巡りの着物を着せて
布団はこれ

 

母は歌が好きだった
3月になったときに、「春が来た」や「春の小川」を
ベッドの横で手を握りながら歌ってあげた
かすかな指の反応 眠りの中でのひとつぶの涙

 

母の妹たちを連れて来てあげた
3人はずっと 母のからだをさすったり もんだり
その日の晩
母は眠りの中で息を引き取った 誕生日の五日前

 

いま、桜がみごとに咲き乱れる横で
春の小川がサラサラ流れている