『旅の途上(1)』 No.3615

よれよれの服を着たみすぼらしい男が
とぼりとぼり歩いている
今日は七つの山を越えて来たそうな
都会の喧騒の中を潜り 裏通りに入り
海辺に出て 砂浜を足跡をつけながら走る
すぐに波は跡をさらう
男は痛んだ足をさすりながらまた山を越え
山に囲まれて田畑がひろがる田舎に出て
里山の麓の古い家に辿り着く

 

もどってきたのだ

 

真冬の寒さのなかの 蜘蛛の巣が残る家前で
ちいさな草たちがかすかにゆれ 男を迎えてくれた

 

かすかに地球の音が聴こえて 
すぐに消えた

 

男は家に入ると 机に坐して
いっしんふらんに 手紙を書いた
自分への手紙を
届けたい見知らぬ自分のなかのあなたに
詩の手紙を 

 

書き終えるとすぐ 出した布団の中で
ぐっすりと眠りについた