『農のカタチをつくる』*No.2506

 何が起こってもおかしくない
時代に突入しました。大気と海
の大変動で、気候が極端化して
きたのです。大雨、巨大台風、
地震・・・。こういった巨大
災害は明日起こってもおかしく
ありません。そしてそれは確実
に食糧不足をもたらします。
 備えはあるのでしょうか。輸
入にばかり頼っていたらどうな
るのでしょうか。というところ
から宝塚北部西谷の農業を考え
てみたいと思います。

 

 農はとても大切です。人間が
生活する上でも生き伸びる上で
もなくてはならないものだから
です。衣食住の中でも「食」の
上に「衣」や「住」が乗っかっ
ているほど必要かつ不可欠なも
のであり、その「食」を生むの
が農なのです。今、その大切さ
に気付きだしてきたようです。
あの大震災や各地に頻繁に起こっ
て来た災害が教えてくれたので
しょう。しかし、我が国の食料
自給率は39%(2014年度
カロリーベース)。そして耕作
放棄地が増加傾向にあります。
「もったいない。ああ、いつか
らこんなくにになってしまった
んだろう」放棄地を自給率の充
足にどうして使えないのだろう、
と嘆かざるをえません。とにか
くこの国の人たちはどうしてもっ
と生き伸びる上での根幹的な農
を大切にしないのだろうか、と
いう疑問が付きまといます。
 現在、農は大きな岐路に立た
されています。
 ここで、西谷の農業にスポッ
トライトをあてて、その問題点
と課題を探り、西谷の明日への
農の展望を何回かに渡って考
えていきたいと思います。 
 さて、まず西谷の農に新し
い息吹を吹き込んでいる西谷
でのトップランナーの一人で
ある南豊さんと中西健二さん
の二人にお話を聞いてみるこ
とにしました。お二人からは
「本気の」意気込みがひしひし
と伝わってきました。
 まずは、西谷の農業を考え、
未来への農のかたち(ビジョ
ン)を模索している南豊さん
です。 
   * * *
 一九九一(平成三)年に父
が亡くなったのをきっかけに、
私はこれまでは手伝いはして
いましたが、後継ぎとして当
然のようにすべて一人で農業
をすることになりました。何
か自分らしくやっていこうと
の思いで、この西谷ではこれ
まであまり栽培されていなかっ
コシヒカリ栽培を始めました。
勿論、会社勤めをしながらとい
う兼業でしたので、家族の手を
借りずに一人でできる自分なり
の方法を少しずつ考えながらやっ
てきました。
 こんななか現在、日本の農業
は、農業者の高齢化や後継ぎ不
足が言われるようになりました。
当然、私も兼業農家であるし、
もし会社の出張で、田植えや稲
刈りができないときや、突然機
械が壊れたとき、あるいは急病
や突然の怪我のときに、まわり
(地域)の誰か余裕のあるもの
が助けられたらいいのに、とい
う思いがありました。そこで、
せめて身近な地域、下佐曽利だ
けでも気兼ねなく地域のものが
互いに助け合える受け皿的組織
をつくろうということで、二〇
〇八(平成二〇)年に「下佐曽
利地域楽農組合」を立ち上げ
ました。以来、今日まで稲作に
関しては、田植えや稲刈り、乾
燥、籾すり等少しずつではあり
ますが、地域の将来を思い、が
んばっています。

西谷に集落営農

 この宝塚北部西谷の今後につ
いては考えていることが三つあ
ります。
 一つは、今日本の農業は「集
落営農」が求められています。
個人農業ではコストばかりが上
がり、高齢化すれば労働もたい
へんです。また後継者がいない
等の深刻な問題もかかえていま
す。だから個人農業よりも集落
協同)営農(あるいは、個人の
大規模農家)に任せるよう求め
られていると感じます。しかし
まだまだ自分でできる、機械も
そろっているし、・・・等の理
由で前に進んでいません。各々
農家の意識改革が求められてい
ます。

   都会に近い利点を
     生かした農を!

 二つ目は、西谷という都会に
近い(半時間ぐらいで行ける)
ので、「都市近郊農業」という武
器があります。宝塚北部という
利点は、なんといっても消費地
に近いということだと思います。
 約三〇年前に始められた減反
政策により、米作りを減らす代
わりに野菜作りが始まりました。
いまや水田の五〇%が減反とな
り、その分を野菜作りに変えて
きました。その野菜作りをもっ
と活かす必要があります。
 その日にとれた「とれ
とれの新鮮野菜」はすぐ
都会に届けられます。
これだけでも西谷野菜は
ブランドなのです。
西谷は寒暖の差が大きく、米も
野菜もそういった気候にもまれ
耐えて強く成長するのでとても
良いのです(以前にも書きまし
たが、「西谷やさい」は飛ぶよう
に売れます)。
 今その活かし方は個人プレー
が多くて統一性が無く個々バラ
バラといった状態です。これに
気付いてもっと活かす方法を西
谷の農に携わるもの全体で考え
近江商人のの三方良し(売り手
よし、買い手よし、世間よし)
の精神に学ぶ必要があるでしょ
う。
    若い力を発揮
      できる環境を!

 三つめは、深刻な問題です。
若い人は西谷から離れて行き、
農業をやる人はどんどん減って
います。なぜでしょうか。西谷
で農業をすることに魅力がなく
(そういうふうに育てられず)、
収入も得られないといったこと
が原因の一つとしてあげられま
す。また、上記二つのことがで
きていないというのも原因する
でしょう。これでは西谷の農業
の未来は暗いとしかいいようが
ありません。 
 私は、今がんばっておられる
じいちゃん・ばあちゃん農業か
ら脱して、若い力を発揮できる
環境をつくるのが、今の私たち
の世代の役割だと思っています。
 いま我々は、この三つの方向
を目指し、道をつけることが大
切な課題です。これが私の責務
とおもい、がんばっています。


     農業大好き!

 「西谷(地域)のみなさんに
育ててもらっています。すご
く良くしてくださって、これ
まで嫌な事はありませんでし
た。ぼくは恵まれています。」
こう語る中西健二さんは、現
在三三歳。大原野中部に家を
構え、西谷での農業に携わっ
て七年目。生粋の農業好きで
ある。とにかく大好きで、農
業が趣味でもあるそうだ。そ
してなんと、奥さんの瞳さん
も同じ趣味ときている。だか
ら二人の趣味が一致して結婚
したという。これはもう農を
営むには理想的な夫婦だろう。
二人には六歳と二歳の可愛い
お子さんがいる。
 夜なべをして明日学校給食
(中学校)に出荷する「西谷太
ネギ」を夫婦仲良く楽しくお
しゃべりしながら揃えておら
れるところにおじゃまして、
話を聞かせてもらった。
 現在中西さんは、いちご、
トマト、キュウリ、ナス、そ
して太ネギを作っている。今
年は黒豆にも挑戦したいそう
だ。それらを一昨年より本格
的に宝塚市内の学校給食に出
荷しだした。  「楽しみは
いい作物がとれたときで、と
ても嬉しい」と笑顔で語る。
やはり、一番力を入れている
のは、いちご(前に、買って
食べたが最高に美味しい!)。
農の六次産業化に挑戦し、い
ちごをイチゴジャムやアイス
クリームにしたり、宝塚牛乳
とのコラボでイチゴシューク
リーム、冷凍イチゴを提供し
ている。給食出荷以外は、宝
塚市内の連携している飲食店
に直接出荷をしたりしている
そうだ。でも、加工品は設備
を整えるとフル稼働しなけれ
ばならないので買った方が安
くつきます、と苦笑。それに
いちごはやはり、生が一番い
いという。イチゴ狩りもして
いて、もう今年で四年目にな
るそうだ。(その企画は三月
から始まります。)
 以上のような仕事をしなが
ら中西さんは、西谷で農業を
している若い人らとは、JA
の青年部で情報交換をしたり
して交流している。現在JA
青年部会長でもある。
    * * *
 さて、これからの西谷の農
の展望(ビジョン)である。

  「宝塚(西谷)観光農園」を

 まず一つめは、西谷を去っ
てゆく在住の若い人や子ども
たちに農業の楽しさを知らせ
たり、西谷にもっと若い人を
呼び入れたりする仕組みと場
を造るということです。農業
を体験してもらう田畑や交流
し合う所が必要です。具体的
なものとして「西谷観光農
園(仮称)」をつくる、とい
うことです。ここは、子ども
たちや観光に来た人たちが農
業体験できる学習や余暇を楽
しむ場になります。そして、
農を志す若い人たちの研修地
にもなります。
 二つめは、研修生(インタ
ーン)の住める施設が必要で
す。行政は、西谷にある教職
員住宅や空き家等の活用を考
え実行に移してほしい。
 三つめは、作物をつくった
り、加工したものを販売する
大きな直売所(猪名川の道の
駅にあるような)がほしいも
のです。作ったものを他所へ
売りに行くのではなく、この西谷へ買いに来てもらえ
る直売所です。そして西谷の農で作ったもの等を取り
入れたレストランやカフェも併設してほしいと思いま
す。
 四つめは、収穫祭をもっと大規模なもの(三田市
「三田農祭り」のような)にすることです。そのために
は、志あるものが中心になった実行委員会で企画し実
行する西谷の農祭りです。この農祭りで客をたくさん
呼び集め、交流し、情報発信する必要があります。
 以上、やはり西谷の農をみんな(農に携わる人たち
や住民市民、行政等)が生みだし、育てていかなけれ
ば、と強く思います。

    * * * 
  本気度一〇〇%。熱く熱く語っていただいたお二人の
話から、西谷の未来における農のカタチが見えてきたよう
です。(他にももっと考えられますが)整理しますと、

?集落営農
?若い人たちが力を発揮できる
環境や子どもたちが学習したり、
西谷に来た人が農を楽しめる場づ
くり
   ●「西谷観光農園(仮称)」
   ●農業研修の宿泊所
?農で作ったものを売る(六次産業)
広い直売所、レストラン、カフェ
?収穫祭を大規模にする

 西谷、それから市民のみなさん、
行政の方々、実現に向けての応援、
支援、協働をどうかよろしくお願
い致します。