『ゾウよ! 再び』 * No.3015
ゾウよ
遠いとおい
海の向こうの
空の向こうの
とおいとおいところを見つめている
ゾウよ
あれだけ長い間
家族や多くの仲間たちと一緒に暮らしていたのに
いまは たった一頭だけになってしまった
ゾウよ
大陸の南端の絶壁
陸と海の
間
するどい境い目に来て
じっと ただじーっと
赤く揺らぐ太陽と
海を見つめている
ゾウよ
楽しく
幸せだった日々
愛しい方と愛し合った日々
子どもたちと
仲間たちと
ゾウよ
逃げ切れたのか
灰の中から立ち上がり
逃げつくせたのか
この蒼い星の片隅に捨てられた懊悩と
秘められた涙によって
ゾウよ
遥か彼方 遠い とおい
哀しみの果ての
遠い
向こうの海から
水飛沫をあげるものがやってきた
大きく真黒な生命の肌を覗かせる
ゾウは 静かに交わる
あなたもか
そうか そうなんだよ
やがて消えてゆくものたちの交信はつづく
茜色の世界のなかで
悠然と立つ死にゆくもの
ゾウよ
今 いま 海に 空に
泣き叫べ
いのちの叫びよ 響きよ 揺らぎよ
宙にとどけ
ゾウよ
海から
大きな巨きな飛沫があがる
生命の飛沫があがる
いのちと
いのちの叫び合い
いのちの終わり
とともに
・
・
・
・