『ゾウよ』 * No.3014
赤く揺らぐ太陽に ふと 誘い出されて
遙かなロマンをもとめ 熱き国からやって来た
ゾウよ
罅割れる母と 乾ききった父と
炎噴く兄弟たちに見守られながら
懊悩を いくつもいくつも乗り越えてきた
ゾウよ
灰に埋もれても 氷に閉ざされても
細胞に記憶された夢を捨てきれず
子を孕み 子を死なせ
いつのまにか
おまえの全身は 哀しみの毛で覆われていた
そして
やっと辿り着いたところは 飢えた人群れだ
おまえの腹に背に足に 何本もの石槍突き刺され
苦しみに曲がった牙は喘ぐ
何としたことか
おまえの眼から何世紀もの生命の血が滴る
血の痛々しさにおまえの身体は捧げられた
ゾウよ
何万年も何億年も 逃げ尽くせ
この蒼い星に少しのあたたかさがある限り・・・・・・
・・・・・・・いま この陳列棚のガラスの深奥に
ひっそりと 茜色の影が落ちる
見よ
その影は真っ黒い煙の渦となり
ぽっかり空いた時間の穴からゆる
ゆるゆると 未来へ漂っていったではないか・・・・・・・・
風そよぎ 赤い太陽が地平に沈む草原に
かつてそうだったように おまえは悠然と歩く
なにおもうなく 歴史を丸呑みにして
のっし のっしと
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