『ゾウよ』 * No.3014

aiueokaki2017-07-14

赤く揺らぐ太陽に ふと 誘い出されて
遙かなロマンをもとめ 熱き国からやって来た
ゾウよ
罅割れる母と 乾ききった父と
炎噴く兄弟たちに見守られながら
懊悩を いくつもいくつも乗り越えてきた
ゾウよ
灰に埋もれても 氷に閉ざされても
細胞に記憶された夢を捨てきれず
子を孕み 子を死なせ
いつのまにか
おまえの全身は 哀しみの毛で覆われていた


そして
やっと辿り着いたところは 飢えた人群れだ
おまえの腹に背に足に 何本もの石槍突き刺され
苦しみに曲がった牙は喘ぐ
何としたことか
おまえの眼から何世紀もの生命の血が滴る
血の痛々しさにおまえの身体は捧げられた


     ゾウよ
何万年も何億年も 逃げ尽くせ
この蒼い星に少しのあたたかさがある限り・・・・・・


・・・・・・・いま この陳列棚のガラスの深奥に
       ひっそりと 茜色の影が落ちる
        見よ
        その影は真っ黒い煙の渦となり
        ぽっかり空いた時間の穴からゆる
        ゆるゆると 未来へ漂っていったではないか・・・・・・・・



風そよぎ 赤い太陽が地平に沈む草原に
かつてそうだったように おまえは悠然と歩く
なにおもうなく 歴史を丸呑みにして
のっし のっしと