何にもない部屋の闇から
偽
ぎぎぎぎーっ
と諦めた者の声がする
一枚の紙切れに
諦めた者が
殴り書きした
とるに足りない
記憶
男は正義を振りかざしながら
自分が楽をしたいがために
欲望を隠蔽し
自己都合ばかりを優先させて
嘘
を吐き続ける
そこに安らぐものは何ひとつない
ぺらぺらの紙切れの
記憶をもとに
仮の宿りをめぐる
シジフォスの苦の往路
行き着く所まで行って
ほら
また元に戻ってしまった
そして
また最初から
こんなふうに
永遠に
借宿をめぐっている男がいる
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※『宿屋めぐり』町田康(講談社)読了。