「仮宿めぐり」 言葉の展覧会716

aiueokaki2009-01-05

何にもない部屋の闇から

ぎぎぎぎーっ
と諦めた者の声がする


一枚の紙切れに
諦めた者が
殴り書きした
とるに足りない
記憶


   男は正義を振りかざしながら
   自分が楽をしたいがために
   欲望を隠蔽し
   自己都合ばかりを優先させて
   嘘
   を吐き続ける
   そこに安らぐものは何ひとつない


ぺらぺらの紙切れの
記憶をもとに
仮の宿りをめぐる
シジフォスの苦の往路


行き着く所まで行って
ほら
また元に戻ってしまった
そして
また最初から


こんなふうに
永遠に
借宿をめぐっている男がいる






※『宿屋めぐり町田康講談社)読了。