茨木のり子が亡くなった

茨木のり子が亡くなった。79歳だった。
背筋をしゃんと伸ばしてものを言う人であったそうだ。浩然としながら繊細、ラディカルでありながらユーモアがある、そんな茨木のり子の詩がぼくは好きであった。「自分の感受性くらい」はもう何度も読んだ。「わたしが一番きれいだったとき」のように、言葉はとてもストレートにぼくの心に突き刺さってくるが、なにかいじらしいものやあったかいものを秘めている。理性的であたたか。また優しくてきびしい。
茨木のり子は日常の中で、戦後を生きる中で、女性として生きる中で確かな言葉に拘った詩人であった。
 
ぼくが駄目な方向に進もうとしているときに踏みとどまらせて、励まし、再起を促してくれる詩を載せて追悼としたい。



       自分の感受性くらい
                      茨木のり子

ぱさぱさに乾いてゆく心を
ひとのせいにはするな
みずから水やりを怠っておいて


気難しくなってきたのを
友人のせいにはするな
しなやかさを失ったのはどちらなのか


苛立つのを
近親のせいにはするな
なにもかも下手だったのはわたくし


初心消えかかるのを
暮らしのせいにはするな
そもそもが ひよわな志にすぎなかった


駄目なことの一切を
時代のせいにはするな
わずかに光る尊厳の放棄


自分の感受性くらい
自分で守れ
ばかものよ