『おおさむ散歩』言葉の展覧会1756

冷たい風に波立つ池の
北にあった懐かしい旅館の記憶
すぐ背後の借景の庭
残された木の無数の枝を追いながら
鬱蒼としたキリストの森へ
虐げられた女性よ来たれ
男人禁制の傍ら坂を上り
五穀豊穣の神社の階段
手水の凍った水が手に染み入る
ぐっと曲がって
校舎に閉じこめたれた子どもたちの声を聴きながら
下界へ降りる
十数年前までかつて林だった跡の小綺麗なマンション
楠木だけが過去を語っている
細い街道に入って下り
また鴛鴦夫婦が泳ぐ菰池へ
にゅっと出て止まった噴水の上に
白鷺が寂しそうに孤独に耐えている
いや、獲物を狙ってじっとしているだけだ
叙情過多を突っ切る
小さな映画館のある階段無しの駅を横目に
枝に芽を宿した桜並木を歩む
高齢者医療付き安住介護高級住宅が遮る
巡礼街道は家ばかり
森を崩され家また家
その家々につくられた箱庭の森
人というものの生活
あちらこちらに散らばり
あたたかい俗が匂う
その向こうの千五百年前のお寺の
赤い三十の塔を見上げながら
しだれ桜の枝に下のベンチに座って
ぼんやりしている老人
走る人、寄り添う高齢者夫婦、スマホに興じる学生と
着飾る娘とすれ違い
ポケットに手を突っ込んで
八画古墳の麓の拙宅に戻ってくる
おおさむこさむ