『広島竹原のホタル』言葉の展覧会1122

ひとっこひとりいない
楠の影
ホタルが草に
橋桁にとまっている



やがて
小さな灯が戯れる
光の絵画
暗闇の
秘儀
時の流れ
ぽっと輝く生



掌のなかの
いきずく灯り
はかなく
明るく
ちょろちょろ流れる小川の流れ
ぐぇろぐぇろ蛙
半世紀戻って
二人の少年ははしゃぐ
妙に懐かしく
なんともいえない美しい
蛍の夜





※先日、宇部からの帰りに広島の竹原で悠々自適している学生時代の友M宅に寄った。竹原の街で酒や食べ物を買ってきて彼の家で一杯やった後、田舎の夜を二人で散歩した。田圃の縁に点在するわずかな家の灯以外には灯りはなく、辺りは暗かった。田圃を走る小川にさしかかったとき、橋の下で小さな灯が動いていた。よく見れば、あちらにもこちらにも、ポッ、ポッと強く弱く灯りが点滅している。蛍だ。
少年時代に戻ったぼくたち二人は小川沿いに暗い足下を懐中電灯で確かめながら歩いていくと、たくさんの蛍に出会った。幻想的な光景。
なんと懐かしく嬉しく幸せな夜のひとときであったろうか。蛍に手をさしのべてみると、スッと手に止まった。