『初老男と少女』 言葉の展覧会879

aiueokaki2010-04-26

項垂れた男は
ふと暗雲を見るともなく見た
みんな同じ空を仰いでいた頃が
妙に懐かしい
白く染まって少なくなった髪が冷たい風にゆれる
春だというのに
冬の体験を生かせないないまま
不信の中で
目指す模範を捜す男
喪失した大きな物語
消耗する「失われた20年」の営み
のしかかる放置された失敗体験
男は再び項垂れる



男の傍らを通りかかった潤いを秘めた瞳の少女は
ふと立ち止まって悲愴な初老男を知る
「失われた20年」って何ですか
そんなこと言われたって
おじさん、元気だしなよ
と真っ白い歯を見せて笑いながら
軽快な服装に瑞々しい肌を包んで
颯爽と通り抜けて行った



雲間から少し陽が射してきたようだ