『混混沌沌』 * No.3028

  いつかの日の 混混沌沌--- ぼくの癒しとしての紙芝居




一枚目
また一枚、ストレスが増えたような一日。
仕事を終えての岐路、ぼくは片手でたまる疲れをほぐしながら車を走らせている。


二枚目
街の向こうに見える夕焼けがあまりにもきれいだったのでぼくは車を停め、外に出て腰を下ろして見入ってしまった。こんなことは何十年ぶりのことだろう。
溶け込んでいきたいようなオレンジのグラデーション。
何もかも忘れさせてくれる魔法の世界・・・


三枚目
知らぬまにやって来た
一つの時代の終わりの夕焼け空


四枚目
しばらく見ていると
パラリと空がめくれて
紺色の世界が現れ
ぼくはそこで展開する光景に目を奪われた


五枚目
そこへ真っ黒な阿修羅が現れた
欲望むきだしの眼がぎょろり
狂ったようにおどり出る
壊れるガラスの家、高層ビル、街
破壊音が空にこだまする
かたっぱしから喰らいだす歴史絵巻
炎が踊る
ときおり身震いする大地
崩れるすべてのもの



六枚目
やがて一段落
瓦礫の上に阿修羅は突っ立ち
夜明け空を仰ぐ
笑っているのか嘆いているのか
しばらくして
ふっ
と消える


七枚目
そして朝 
明るくなるはずなのに
黒い影がぐーんと伸びて世界を包む
影は未来にも届いている



八枚目
またたくまに闇
時計の逆回転
あのとき みんな飢えて目の前の食べ物がすべてだった
寒さから身を守ることが生き延びる道 みんな肌をよせあった さらに時計はまわり 一粒の生命体  何のために生まれたんだ ただ遺伝情報としての命 そしてひたすらウィルスとのたたかいと逃走 −−−−


九枚目
ヒトは自ら宿っているものに反逆され
自らつくりだしたもので滅びる
教科書の中の文学がこわばっている


十枚目
意気消沈した忘却
 迷い鳥が啄んでいる
  記憶喪失したりんご
   ぼくは歩き出せない



十一枚目
病んだ希望
時代の中にある
まだ見ぬ時代なんて
ない
真っ黒な泥水に浮き沈みする遺体
腐敗するりんご
倦怠した詩



十二枚目
実にあっけなく死の扉は開かれている
誰もが皆その扉をくぐる
夥しいほどの行列
確かにぼくもその中にいた



十三枚目
昼下がりの闇
自分の場所が失われていた、ぼくの居場所が
ただカラスが群れて鳴いている
壊れた石膏像に
冷たい雨が降りかかり鈍くひかる



十四枚目
どこを探しても自分がいない
ぼくはどこだー
瓦礫に埋もれた時計が
午後の三時を告げる



十五枚目
不在のはずなのに
コンコン
混混 音がする 
真っ暗闇なのになんて明るいんだと音がする
トントン
沌沌 音がする
もうすでに終わっているのに
終わりの終わりさ、と音がする
混混沌沌 混混沌沌
音楽が聴こえてくる
魂を呼び覚ます呪文
混混沌沌降レ降レ混沌降レ降レ星混混沌沌・・・・・



十六枚目
時は経ち
次第に薄れていく闇
見えてきたのは満面の星空
降るように星は輝く



十七枚目
ぼくは銀河団を食べ
星の石けりをする
カラスに目を啄まれる自由だってある
明日からぼく自身の仕事を持とう
ぐっすりと眠りこける遊園地
よみがえる詩



十八枚目
ぼくは絵かきになって
心の中に潜んでいた地図を描く
軽やかに ときに重く
時間の中にある 
まだ見ぬ時間へ
まだ見ぬ街へ
さあ



十九枚目
いつでもどこでも揺らぎが聴こえる
混混沌沌 混混沌沌
聴こうとさえすれば
混混沌沌
      コンコン
             トントン


・・・