こんな所で、ばったり会いたい人は

aiueokaki2005-05-19

  野路もえさんから、こんな文が送られてきた。「すこし不思議な出来事」と題して、読んでみて、感想を聞かせてくれ、とのこと。                
 ”マンション14階の部屋で一人パソコンに向かっていた5月の夕方、わたしはキーボードの手を止め、ふと目を閉じて顔を窓のほうに向けた。
 いきなり、白っぽい和服姿の女性が、にっこりと笑って右手をパーの形にして上げ、わたしのほうに歩いてくる。
 はっと目を開けた。あれっ?今のは母か。笑い具合がわたしに似ていると思ったが、それは40歳くらいの若い母の姿だった。淡い模様のある涼やかな白地の紬がよく似合って、清清しい笑顔だった。
 母が輝いて“一瞬”そばに現れた!何の前ぶれもなく。母の居たその場所は、そう、夙川の桜並木の道。あの石のベンチのところ。

 母が亡くなってもうすぐ12年目が来ようとしている。5月23日は母の誕生日、生きていれば95歳。カレンダーにそう書き込んでいる。母はなぜ一瞬、わたしの前に現れたんだろう。清清しい姿でくっきりと。わたしに何かとっておきのメッセージを持ってきてくれようとしたのだろうか。きっとそうだな。

 わたしは今年天候のかげんか身体の具合がよくなくて、横になる日や時間も少なくなかった。若いころからの持病がまた悪さをはじめたのかもしれないなあと漠然とした不安をかかえながら日常をやりすごしていた。わたしの身体の不調以外に、夫や息子の生活上の変化もあって、わさわさと落ちつかない日々。そんな折「桜を見にいこうよ」と友人から誘われた。4月に入って少しずつ体調が上向いてきていたのだが、ここ半年くらいの具合の悪さをたぶん必要以上に悲観していたのでこれが桜の見納めかもと変な覚悟まで心の内に秘めて、友だち数人と楽しい桜見の一日をすごした。
 今年の桜は気候不順のため例年より遅く咲き、4月中旬の花見なら散ってしまっていないかなあという心配も無駄となり、見事なこれ以上ないというほどの 満開の桜にめぐり合えた。
 北山貯水池から夙川へ・・・。こころ満たされ歩きつかれて、夙川の桜並木のベンチにみんな並んで腰掛けて休憩した。ぞろぞろとたくさんの花見客がわたしたちの前を通り過ぎて行く。
「ねえ、こんなところでばったりと、会いたい誰かに、会ってみたいなあ」
「うん、会いたい」「会えばすごくうれしいねえ」「誰にあいたい?」
 みなそれぞれに会いたい人をイメージしている様子。わたしは会いたい男の人二人を考えていたけれど、くっきりした像は浮かばなかった。

 それから一ヶ月近くたって、あの夙川のベンチのわたしに向かって、「やあ」とでもいうように手を上げてこちらにやってきたのが母だった。母は若くきれいで、率直で、可能性に満ちていた。
 わたしが会いたかったのはそんな母だったのか。この少し不思議な出来事は、なかなか粋な人生の演出だなあ。わたしの中で語りついでいくことにしよう。
「おかあちゃん、会いに来てくれたの、ありがとう。わたしは大丈夫よ」”

 心臓の病気で、最近めっきり弱っていたもえさん、おかあちゃんが「そんな病気にへこたれるな、元気を出せ!」と励ましに来てくれたのかもね。
 はてさて、ぼくには桜並木の下で会いたい人って、誰かいるかなあ、う〜ん、と考えたがすぐには浮かんで来なかった。 ・・・・・